国際医療福祉大学成田キャンパスに就職しました!
だいぶ前の話ですが、今年の2月に国際医療福祉大学成田キャンパスの総合教育センター助教(語学教育センター・日本語別科併任らしい)に着任いたしました。
およそ2年の専業非常勤生活の末、常勤職に就くことができました。
私、成田市の隣で生まれ育ったので、地元に戻ってきた感じです。
医学部・看護学部・保健医療学部の3学部の医療系専門職の日本語教育ということで、長年興味はありつつも関わりの薄かった専門日本語教育に目を向けなければならなくなりました。(嬉しいことではありますが!)
ただ、着任から3ヶ月ほどは、医学部に入学する留学生の予備教育をしながら、今年度新設の医学部のカリキュラム作りを、行わなければならなかったり、4月になってもいろいろごたごたしていたりで、ようやく落ち着いてきた所です。
同僚の先生方と、少しずつ研究の話もできるようになってきました。学会にも少しずつ参加したいと思っています。(子どもが小さいので、なかなか難しくはありますが・・・。)
既設2学部も昨年度開学しているので、ほぼ何もない状態で、1から作り上げた感じです。
何もなかったところから、日本語教育を立ち上げるというのは、大変ではありましたが、良い経験になりました。
医学部生に対する日本語教育に関する研究は、ほとんど行われていません。自分自身も研究を進めつつ、他の先生方の研究にもどんどん参加して、(うちの大学の日本語教育の)知名度を上げていければいいなと思っています。
はじめてのおしごと
ということで、いままでやったことのないことに携わる機会が多いです。
たとえば
科研費のスタート支援に応募
新設の学部で、資料や機器が揃っておらず、研究費を確保しなければ、研究ができない状況にあるため、科研費に早速応募しましたよ。通ったらいいなー!
カリキュラム作り
いままでは、既にあるカリキュラムに乗っかる形で日本語教育に携わってきましたが、専任になった瞬間からカリキュラム作りや教科書選定に携わることになりました。良い経験になりました。
などなど、新設大学ならではのことがいろいろとありました。
これからは、少しずつ医学部や看護学部、保健医療学部の様子もご紹介できたらなと思っています。
蛇足ですが・・・
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日本語教科書『げんき』のメリット
昨年度より担当している初級日本語クラスでは『げんき』という教科書を使っています。
GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese I [Second Edition] 初級日本語 げんき I [第2版]
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GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese II [Second Edition] 初級日本語 げんき II [第2版]
- 作者: 坂野永理,池田庸子,大野裕,品川恭子,渡嘉敷恭子
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約二年間使って、この教科書のメリットとデメリットが見えてきたので、まとめてみたいと思います。必要に応じて、他の大学の初級クラスで使っている『みんなの日本語』と比較します。
『げんき』 を採用した理由
『げんき』は、同じクラスを担当する先生と相談して採用しました。その理由として、以下の点があったように思います。
・自学自習ができる。
・初級文法が概ね 網羅されている。
・副教材を(学生が)購入する必要がない。
・日常に即した語彙が豊富
学内で日常的には英語を使っており、日常生活や研究室で日本語を使えるようになりたいという学生を対象にした授業とのこと。日常に即した語彙が豊富で、学んだらすぐに使えるようにしたいとの 思いがありました。
また、普段は自分の研究に忙しい学生 たちでしたから、時間のある時にサッと復習できても欲しかったのです。
『げんき』のメリット
デメリットと重複する部分がありますが、メリットは大きく以下の5点にまとめられるかなと思います。
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
(2)語彙・表現が現実に近いこと
(3)縮約形などの説明があること
(4)CDの音声が豊富であること
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
それぞれについて、詳しく説明します。
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
英語が公用語の一つとして使われている国の学生や、英語が得意な学生には、好評です。
『みんなの日本語 初級』は、文法説明と語彙リストは、別冊を購入する必要があります。
中国語、ベトナム語、ポルトガル語など、学習者のニーズに合わせるのには良いですが、それぞれ買う必要があり、学習者にとっては大きな負担になります。
解説は、『みんなの日本語』よりも詳しく、分かりにくい項目(授受動詞など)については、図示されていることも多いです。
学生に前もって、予習してきてもらうことが容易なテキストになっています。(同様に復習にも使いやすいようです。)
担当している授業は、週に2回あり、どちらか一方にしか出られない学生がいます。そういう学生は、出られない回の自習に活用しているようです。
(2)語彙・表現が現実に近いこと
『みんなの日本語』も改訂され、ある程度改善されているような気がしますが、大学生や日本語学校生、専門学校生の日常に即しているとは言いがたい気がします。
そもそも『みんなの日本語』は「技術研修生/一般成人対象」*1に作られた『新日本語の基礎〈1 本冊漢字かなまじり版〉』を基にしているのもあるとは思いますが・・・。
その点「げんき」は大学で使うことが想定されているようで、大学生の日常で使う語彙が豊富に含まれています。
当然のことながら、上記のようなメリットは、地域日本語教育や、ビジネス日本語の現場などでは、使いにくいかもしれないというデメリットにもつながります。
(3)縮約形などの説明があること
たとえば、『みんなの日本語』では、「〜なければならない」という表現は、
「うちへ帰らなければなりません。」のような例のみが提示されています。
一方、『げんき』では、同様の表現は「〜なければいけない」として提示されていますが、「うちへ帰らなければいけません。」に加えて、会話では「うちへ帰らなきゃ(いけません)」のようになることが多いと説明されています。
学習者の多くは、コミュニケーションを取るために学んでいます。このような縮約形も知っておくことは、現実の場面で、役に立つことと思います。
(4)CDの音声が豊富であること
語彙や会話の音声のみならず、各課の終わりに付いている練習問題のキューの音声もCDに入っています。
ひらがなやカタカナの字面だけでは、アクセント/イントネーションなどはなかなか分からないものですし、教室以外の環境では、音声で確認することは難しいと思われます。
教科書に載っているほぼ全てに音声が付いていることは、自習に大いに役立つのではないかと考えられます。
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
『げんき』のCDは、自然な日本語に近いように感じます。
学習者から、「周りの学生/アルバイト先の同僚/日本人の友だちの日本語が早くて聞き取れない」と言われることがあります。
日本語を教える私たちは、意識的にせよ、無意識的にせよ、いわゆるティーチャートークになってしまっていることがあります。*2
何度も聴けるCDで、自然なスピードの日本語を確認できるのは、大きなメリットになるのではないかと考えられます。
『げんき』を採用するメリットのある環境
上述したように、
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
(2)語彙・表現が現実に近いこと
(3)縮約形などの説明があること
(4)CDの音声が豊富であること
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
といった点が、メリットであると考えられます。
『げんき』を採用することがメリットとなる環境は次のようなところではないかと思われます。
(1)学習者の第一言語が英語である/学習者の母国で英語を使う機会が多い/学習者に英語で論文を読める程度の英語力がある
文法の説明は、英語で書かれています。英語が分かる学生には、詳しく理解できて、好評です。
一方で、理解するには、ある程度の英語力が求められます。学習者の英語力に差が大きい環境では、使いづらいかもしれません。
(2)教室での授業の時間が少ない
専門は言語とあまり関係なかったり、英語プログラム等で留学していたりすると、日本語の授業に割ける時間は、どうしても短くなってしまいます。そういった学生にとっては、自習のしやすいこの教科書は、役に立ちます。(『みんなの日本語』などは、教室での使用に特化している印象。このことは、いずれ書きたいと思います。)
(3)コミュニケーションの多くは、大学内で起こる
大学生が良く使う語彙が多く、敬語など待遇表現の練習問題も対先生が多いです。
対学生/対教員のコミュニケーションが中心の学生には、すぐに実践でき、良いです。
(4)日本語にふれる機会が少ない
このテキストは付録のCDに、文法説明を除く、ほぼ全ての箇所の音声が含まれています。音声はMP3形式で収録されていて、使い勝手が多少劣るものの、音声の豊富さは、日本語にふれる機会の少ない学習者にとってはメリットとなります。
*2:私自身を振り返ってみても、授業中や学習者と話す際には、「話すスピードを落とす」「少ない語彙で話す」「縮約形は避ける」などをしてしまっています。
日本事情の授業でディスカッション
ある大学では、日本事情の授業を担当しています。
対象は、学部生ほぼ全員なのですが、実際には来るのは留学生のみです。
日本語は、中上級から上級といったレベルの学生たちです。
日本事情の授業は、その名の通り、日本の文化や、歴史、社会などに関する基礎知識を教える授業で、昨年から担当しています。
前期の授業では、講義と学生によるプレゼンテーションで、基本的な知識を導入しています。
後期は、前半を踏まえ、議論が起きるような日本に関する読み物を読み、日本の実状を知った上で、さらに、それに関連する内容でディスカッションをしています。
主に、上記のテキストで扱われているテーマを参考に、新聞記事などを読み物としています。
背景
こういった取り組みを昨年も行ったのですが、その理由として、以下の点が上げられます。
・聞いたり読んだりするのは理解できるが、自分の考えをまとめて説明するのは難しく感じる人が多い。
・前期の授業でも、学生に意見を求めることはあったが、なかなか発言がでなかった。
・日本に長く住んだり、日本で就職する学生がいることも考えると、日本の社会の実状をしっかり理解し、それに意見をもっておくことは重要であると考えられる。
そのために、以下の目標を設定しています。
・教科書で取り上げられないような、(日本に住んでいる人に向けて)社会の様々な分野について説明したり、意見を述べるような文章を読むことができるようになる。
・社会で議論になるようなことについて、自分の意見を論理的にしっかりと伝えられるようになる。
方法
以下の手順で授業を進めています。
1)授業の前に、語彙を学習しておく。
2)授業内で、まずは、ルビなどなしで、文章を読む。
3)文法事項を確認していく。
4)内容についての理解を問題で確認していく。*1
5)ディスカッションシートに記入する。
6)ディスカッションをする。
ディスカッションシートは、
・自分の意見
・根拠
・その証拠
を記入する欄があります。根拠は3つほど書けるようにしてあります。
ディスカッションをしていくと、違う意見を持つ人から、反論が来ます。
その反論を書ける欄、さらに再反論を書く欄も設けてあります。
クラス内でのディスカッションができたら、シートを宿題として完成させます。
自分の興味のあるディスカッションのテーマについて、シートを参考にしながら意見文を書きます。シートには、既に自分の意見、根拠、反論、再反論が書かれているので、説得力のある意見文が書けます。
効果
今年度は始まったばかりですので、効果を示すことはできませんが、昨年度は、思った以上の効果を出せたように思います。
学期の始めは、感情論になりがちだったのが、学期の終わりには、きちんと根拠を示して説得力のある議論になっていました。
議論の最中についても、最初のうちは、私からも反論をしたりしていましたが、そのうちに、学生たちだけで、議論できるようになっていました。
テーマを述べてシートを渡せば、さっと記入し、10分後には、議論を開始、白熱した議論を日本語ですることができていました。
作文も、極めて説得力のある文章がまとまり、文法や表記の細かいミスを除けば指摘するところはほとんどありませんでした。
自分の意見を述べることは、特に外国語においては難しいところではないかと思います。そのもどかしさから、日本での生活が嫌になったり、一方的に受け入れるしかなくなってしまったりといったこともあるのではないかと思います。
この授業で、自分の意見が述べられるようになったことで、学生たちの受講後の学生生活が豊かになっていることを願わずにはいられません。
改善点
ただ、昨年は、学生が上級レベルにあったため、というのもあったかもしれません。
今年は、以下のようなことを導入し、改善を試みています。
1)語彙を覚えられるようにMemriseを導入。
→語彙がないと議論したくてもできないこともあるため。
2)内容理解の問題を解くだけでなく、自分が読んで理解したことの説明する。
→分かっているかどうかを把握するためと、理解したことを要約して分かりやすく説明する力を付ける。*2
3)読解/ディスカッションの時間を増やす
→受講生が増えたため、学生が話す時間を増やしたいのと、レベルが様々なので、読解に時間をかけたいため。
まとめ
調べたり、プレゼンテーションをすることも勿論大切ですが、日本や世界で議論になることについて、しっかりと自分の意見を述べられることも、重要だと考えています。
この授業の取り組みを、今後も活かして、授業内に導入していきたいと思っています。