日本語教科書『げんき』のメリット
昨年度より担当している初級日本語クラスでは『げんき』という教科書を使っています。
GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese I [Second Edition] 初級日本語 げんき I [第2版]
- 作者: 坂野永理,池田庸子,大野裕,品川恭子,渡嘉敷恭子
- 出版社/メーカー: ジャパンタイムズ
- 発売日: 2011/02/14
- メディア: ペーパーバック
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GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese II [Second Edition] 初級日本語 げんき II [第2版]
- 作者: 坂野永理,池田庸子,大野裕,品川恭子,渡嘉敷恭子
- 出版社/メーカー: ジャパンタイムズ
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約二年間使って、この教科書のメリットとデメリットが見えてきたので、まとめてみたいと思います。必要に応じて、他の大学の初級クラスで使っている『みんなの日本語』と比較します。
『げんき』 を採用した理由
『げんき』は、同じクラスを担当する先生と相談して採用しました。その理由として、以下の点があったように思います。
・自学自習ができる。
・初級文法が概ね 網羅されている。
・副教材を(学生が)購入する必要がない。
・日常に即した語彙が豊富
学内で日常的には英語を使っており、日常生活や研究室で日本語を使えるようになりたいという学生を対象にした授業とのこと。日常に即した語彙が豊富で、学んだらすぐに使えるようにしたいとの 思いがありました。
また、普段は自分の研究に忙しい学生 たちでしたから、時間のある時にサッと復習できても欲しかったのです。
『げんき』のメリット
デメリットと重複する部分がありますが、メリットは大きく以下の5点にまとめられるかなと思います。
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
(2)語彙・表現が現実に近いこと
(3)縮約形などの説明があること
(4)CDの音声が豊富であること
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
それぞれについて、詳しく説明します。
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
英語が公用語の一つとして使われている国の学生や、英語が得意な学生には、好評です。
『みんなの日本語 初級』は、文法説明と語彙リストは、別冊を購入する必要があります。
中国語、ベトナム語、ポルトガル語など、学習者のニーズに合わせるのには良いですが、それぞれ買う必要があり、学習者にとっては大きな負担になります。
解説は、『みんなの日本語』よりも詳しく、分かりにくい項目(授受動詞など)については、図示されていることも多いです。
学生に前もって、予習してきてもらうことが容易なテキストになっています。(同様に復習にも使いやすいようです。)
担当している授業は、週に2回あり、どちらか一方にしか出られない学生がいます。そういう学生は、出られない回の自習に活用しているようです。
(2)語彙・表現が現実に近いこと
『みんなの日本語』も改訂され、ある程度改善されているような気がしますが、大学生や日本語学校生、専門学校生の日常に即しているとは言いがたい気がします。
そもそも『みんなの日本語』は「技術研修生/一般成人対象」*1に作られた『新日本語の基礎〈1 本冊漢字かなまじり版〉』を基にしているのもあるとは思いますが・・・。
その点「げんき」は大学で使うことが想定されているようで、大学生の日常で使う語彙が豊富に含まれています。
当然のことながら、上記のようなメリットは、地域日本語教育や、ビジネス日本語の現場などでは、使いにくいかもしれないというデメリットにもつながります。
(3)縮約形などの説明があること
たとえば、『みんなの日本語』では、「〜なければならない」という表現は、
「うちへ帰らなければなりません。」のような例のみが提示されています。
一方、『げんき』では、同様の表現は「〜なければいけない」として提示されていますが、「うちへ帰らなければいけません。」に加えて、会話では「うちへ帰らなきゃ(いけません)」のようになることが多いと説明されています。
学習者の多くは、コミュニケーションを取るために学んでいます。このような縮約形も知っておくことは、現実の場面で、役に立つことと思います。
(4)CDの音声が豊富であること
語彙や会話の音声のみならず、各課の終わりに付いている練習問題のキューの音声もCDに入っています。
ひらがなやカタカナの字面だけでは、アクセント/イントネーションなどはなかなか分からないものですし、教室以外の環境では、音声で確認することは難しいと思われます。
教科書に載っているほぼ全てに音声が付いていることは、自習に大いに役立つのではないかと考えられます。
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
『げんき』のCDは、自然な日本語に近いように感じます。
学習者から、「周りの学生/アルバイト先の同僚/日本人の友だちの日本語が早くて聞き取れない」と言われることがあります。
日本語を教える私たちは、意識的にせよ、無意識的にせよ、いわゆるティーチャートークになってしまっていることがあります。*2
何度も聴けるCDで、自然なスピードの日本語を確認できるのは、大きなメリットになるのではないかと考えられます。
『げんき』を採用するメリットのある環境
上述したように、
(1)本冊に英語で文法説明・語彙リストがあること
(2)語彙・表現が現実に近いこと
(3)縮約形などの説明があること
(4)CDの音声が豊富であること
(5)CDの音声のスピードが自然な日本語に近いこと
といった点が、メリットであると考えられます。
『げんき』を採用することがメリットとなる環境は次のようなところではないかと思われます。
(1)学習者の第一言語が英語である/学習者の母国で英語を使う機会が多い/学習者に英語で論文を読める程度の英語力がある
文法の説明は、英語で書かれています。英語が分かる学生には、詳しく理解できて、好評です。
一方で、理解するには、ある程度の英語力が求められます。学習者の英語力に差が大きい環境では、使いづらいかもしれません。
(2)教室での授業の時間が少ない
専門は言語とあまり関係なかったり、英語プログラム等で留学していたりすると、日本語の授業に割ける時間は、どうしても短くなってしまいます。そういった学生にとっては、自習のしやすいこの教科書は、役に立ちます。(『みんなの日本語』などは、教室での使用に特化している印象。このことは、いずれ書きたいと思います。)
(3)コミュニケーションの多くは、大学内で起こる
大学生が良く使う語彙が多く、敬語など待遇表現の練習問題も対先生が多いです。
対学生/対教員のコミュニケーションが中心の学生には、すぐに実践でき、良いです。
(4)日本語にふれる機会が少ない
このテキストは付録のCDに、文法説明を除く、ほぼ全ての箇所の音声が含まれています。音声はMP3形式で収録されていて、使い勝手が多少劣るものの、音声の豊富さは、日本語にふれる機会の少ない学習者にとってはメリットとなります。
*2:私自身を振り返ってみても、授業中や学習者と話す際には、「話すスピードを落とす」「少ない語彙で話す」「縮約形は避ける」などをしてしまっています。