Livre para Viver

日本語とポルトガル語とその周辺

【覚え書き】医療コミュニケーション研究に関する入門書

先日の記事でご報告したように、今年度より国際医療福祉大学に着任し、医学部をはじめとする医療系専門職を目指す学生の日本語教育に従事することになります。

そのうち看護については、EPA*1などもあり、既に先行研究がかなり行われています。看護の日本語教育は、既にいくつかの教材が開発されており、一般に販売されています。*2

一方、医学部の日本語教育については、実践報告レベルでの論文が中心となっているようです。*3

着任した大学は、新入生140名のうち20名が留学生であり、これだけの留学生が在籍しているのは、全国でも例をみないようで、これらの先行研究を参考にしつつも独自の日本語教育を作り上げていく必要があります。

今後は、医療コミュニケーション分野の知見も参考にしながら、研究を進めて行かなければなりません。そして、その研究の成果を医学生日本語教育に還元していく必要があります。

医療コミュニケーションは一種の制度的な談話であると考えられます。私も制度的な談話には興味をもちつづけていますが、研究の対象としてきたのは、教室談話。医師と患者とのコミュニケーションや、医療者同士のコミュニケーションについては、無知もいいところです。そこで、まずは、研究のとっかかりとして、どのような研究があるのかを知り、それらの概要を学ぶことにしました。

いくつかの本を購入したり図書館で借りたりしましたが、いまのところ

  1. 医療コミュニケーション研究会(編集)(2009)『医療コミュニケーション―実証研究への多面的アプローチ』篠原出版新社
  2. 石崎雅人・野呂幾久子(監修)(2013)『これからの医療コミュニケーションへ向けて』篠原出版新社.

の2冊がよさそうな印象です。

1. は医療コミュニケーションの研究を概観し、主な研究手法を紹介しています。社会言語学的なアプローチ*4、機能的アプローチ*5、会話分析、ナラティブ分析、異文化分析、カウンセリング心理学といった複数の視点から見た医療コミュニケーションを具体的な研究成果を紹介しています。

2. は、医療コミュニケーション研究を、医療の現場にどう活かしていくのかという観点で紹介しているものです。1. が研究手法の指南だとしたら、研究成果をよりよい医療コミュニケーションのために活用するというのが、この本です。まだ、読めていないのですが、今後医療職に関わる学生たちの指導にあたっているので、勉強しなければと思っています。

日本ヘルスコミュニケーション学会にも先日加入に、秋の学会に参加しようと思っています。まだまだ勉強しなければいけないことが多くあります。医学系の留学生の日本語教育を行っている先生方のみならず、看護や介護の日本語の研究者の方などからも勉強させて頂きながら、今後は研究していきたいと思っています。

 

*1:経済連携協定, 詳細は外務省サイト参照

*2:たとえば、『外国人のための看護・介護用語集―日本語でケアナビ 英語版』や『専門日本語入門 場面から学ぶ介護の日本語【本冊】』など。

*3:松元宏行 (2000)「医学系留学生のための専門日本語教育」専門日本語教育研究 , pp.46-53.など 

*4:といっても幅広いですが、紹介されているのは、ポライトネスが中心です。

*5:Balesのインタラクションを統計的に分析するための手法であるIPA (Interactin Process Analysis)を医療に特化させたRIAS (Roter Interaction Analysis System) を用いたものが紹介されています。