ポルトガル語専攻を卒業し日本語教育に携わるようになるまで
私は、学部はポルトガル語を専攻していました。3年次にはブラジルに留学までしたのにも関わらず、今ではポルトガル語との関わりはほとんどなく、国内の大学で日本語教育に従事しています。
なぜ、日本語教育に従事するようになったのか、ポルトガル語と離れていったのはなぜか、いわゆるマイナー外国語*1を専攻している方の将来にも役立つエントリーになればと思います。
ポルトガル語専攻を選んだわけ
先述したように、学部はポルトガル語専攻、在学中はブラジルに留学もしました。
ポルトガル語を専攻したのは、単に、「子どものころブラジルに住んでいたのに、ろくに話せなかったから話せるようになりたい」と思ったからでした。また、帰国後、実家のそばのアパートにブラジル人が住んでいたことで、日本には、かなりの数のブラジル人が住んでいるということを知ることになりました。そのため、ポルトガル語は今後必要とされる言語なのではないかと思ったのもありました。
学部1年/2年 言語学への興味
大学に入学する前は、言語学にはほとんど興味はありませんでしたが、高2ぐらいのころに、以下の本を読んで、漠然と「ことば」について研究することへの興味は多少ありました。
学部入学後は、さまざまな分野の授業を受けましたが、入学当初、わたしの入った学科では教職課程が取れませんでした。 しかし、大学を卒業するからには、何らかの資格(らしきもの)がほしいと思っていました。調べたところ、母校には、「日本語教員養成課程」というのがあるということを知りました。これは、必要な単位を取ればプログラム修了証がもらえるというものです。そのため、言語学、日本語学、心理言語学などの授業を1・2年次の間に受講しました。そのような授業を受けていく中で、漠然と言語を科学する言語学に興味がわいてきたのです。
ブラジル留学中 留学先での音声学の授業
留学先では、音声学/音韻論の授業を取りました。教科書はポルトガル語で書かれていたのですが、とても面白かったことを覚えています。私がポルトガル語を学んでいく過程で、ブラジルでも日本でも、音声学的知見に立脚した音声指導というのはほとんどありませんでした。より自然に発音するのにはどうしたらよいのかを学ぶことができ、音声学についても興味がわきました。学習者として、何に意識して発音すればいいのかを知ることができたことはとても大きかったように思います。
とはいえ、学部2年間程度のポルトガル語でブラジルの大学で現地の学生向けの授業を受けているので、講義はよくわかりません。そんなときに役立ったのが以下の本です。
学部4年 談話分析や社会言語学への興味
留学中も言語学への興味を増していた私は、帰国後も必修単位以外は言語学の授業を取ることに決めていました。また卒論のゼミも言語学系のゼミにすることを心にきめていました。
まず、ゼミを決めるにあたって、言語学縛りで探したところ、ほとんどのゼミは、ポルトガル語以外の特定の言語を対象にしているか、3年次からのゼミ参加を義務づけていました。そのため、4年次からの参加がOKで特定の言語を対象としていない「認知言語学」のゼミに入りました。担当の先生はタイ語の先生で、認知言語学がご専門の先生でした。結果、いまでも尊敬する先生に指導を仰ぐこととなりました。
このゼミでは、以下の本を交代で発表しました。学生3名の小さなゼミだったため、発表が頻繁にまわってきました。大変でしたが、認知言語学についての知識を体系的に、先生の補足つきで勉強することができました。アカデミックな発表や、レポートの書きかたを学んだのはこのゼミだったな、と思います。
一方、談話分析の授業では、以下の本を読みました。
You Just Don't Understand: Women and Men in Conversation
- 作者: Deborah Tannen
- 出版社/メーカー: William Morrow Paperbacks
- 発売日: 2001/08/01
- メディア: ペーパーバック
- クリック: 1回
- この商品を含むブログを見る
社会言語学の授業では、国会議事録の分析を松田謙次郎先生が紹介なさり、ますます社会言語学や談話分析への興味を募らせていきました。
というわけで、ポルトガル語ももちろん興味がありましたが、興味の対象は日本語の分析へと移っていきました。卒業論文も日本語のことについて書きました。そして、筑波大学大学院への進学を決めたのです。
大学院前半 日本語教育への興味
修士1年のときには、あまり日本語教育への興味はなく、修了したときの職として、「日本語教育をやっていればあぶれることはないかな」というよこしまな(?)気持ちから、日本語教育能力検定を受けました。私の所属していたのは応用言語学領域だったということもあり、日本語教育に携わっている人も多かったのですが、そのころは日本語教育には、特別興味があったわけではありません。
そんな折、日本語教育への興味がわいてくる特別なできごとがいくつかありました。
(1)NHK国際放送局でのアルバイトで、「やさしい日本語」*2というコーナーの存在をしったこと。
(2)日本語学校で1年半教えたこと。
(3)「WEB版 エリンが挑戦!にほんごできます」のクイズ作成を担当したこと。
いずれ、これらについても書いていきたいとは思いますが、大学院在学中に日本語教育への興味が一気に湧いてきました。
大学院後半 ポルトガル語の非常勤講師
日本語学校を退職してからは、単発で日本語を教えることはあったものの、非常勤講師として大学で教えていたのはポルトガル語でした。まさに、この時、大学で第二言語の教育に携わりたいという思いが強くなってきました。そのほか、企業研修の講師としてポルトガル語を教えていました。この間、ポルトガル語の辞書執筆にも携わることができました。*3
ただ、ポルトガル語を専攻していない私が、専任教員としてポルトガル語を教えられるのは、夢のまた夢。大学院でポルトガル語の研究をしても就職できないという話もあるのに、自分には、とうていかなえられません。
そこで、博士論文を提出後は、ポルトガル語の非常勤講師や企業研修の仕事を続けつつ、日本語教育に従事することにしました。専業非常勤講師として約2年間、留学生別科や学部の留学生に対する日本語教育に従事し、2年目からは(日本人学生も含む)学部生向けのアカデミックライティングの授業も担当させてもらうことができました。
そして現在 コーパス言語学/専門日本語教育への興味
そして、昨年2月より、国際医療福祉大学において、医学部留学生、医学部進学を前提とした別科留学生、看護学部、保健医療学部の留学生に対して日本語を教えています。
看護学部はさておき、そのほかの学部の留学生に対する日本語教育に使えるリソースは多くないことを痛感しています。国試を分析したりするためには、コーパス言語学の知見を活かさなければ、太刀打ちできないということを認識し、勉強しつつ研究しています。
いまの大学で日本語教育に従事することにならなければ、以下のような研究が行われていることも知ることもなかったでしょう。
ポルトガル語やそのほかの言語を研究している人へ
学部時代から日本語教師を目指し、日本語教育をやってきている方からすれば、とんでもない経歴なんだろうなと思います。お叱りも受けることでしょう。
しかし、ポルトガル語やそのほかの言語を研究している方にとって、日本語教育という道で大学教員になるという道があると知っておいてほしいなと思います。(知っているかもしれませんが。)
言語は違えど、言語教育、言語研究というのは、面白いものです。私自身、ポルトガル語を勉強した経験が役に立っているように思います。