サイトトランスレーションを通訳法の授業でやってみた
今年は、非常勤先大学で「ポルトガル語総合9」という名前の授業を担当しています。(cf.媒介語を使わないでポルトガル語の授業をしてみた件 - Livre para Viver)
タイトルだけみたら、何の講義かさっぱりわからん。ポルトガル語をやるんだろなーということしか分かりません。
授業の内容は通訳法。週1コマ、前期のみ15回の科目です。
通訳法をやるのに、それは短すぎだろーと思うのですが、非常勤講師なので口出しはできません。お仕事を頂けるだけでありがたいと思わなくては。
今年は、昨年度が難しかったとの噂が流れていたらしく、3・4年生の専攻語学生対象の授業であるのにも関わらず、4年生しか授業に来ていません。それも、昨年は初回30人、コンスタントに来ていたのは14人でしたが、今年は5人と大幅に減りました。(よほど不評だったのかしら・・・。)
できるだけ自分で練習ができると良いなぁ
というわけで、昨年のようにポルトガル語のレベル差をそれほど考慮しなくてもよくなったので(留学経験がない学生が1人だけです。)、シラバスやガイダンスで提示した内容を少し変えて、英語通訳者がやるようなトレーニングを導入することにしました。(シラバスと変えると授業評価アンケートが怖いけど・・・。)
15回しかない中に、社会言語学・異文化コミュニケーション学的知見、(産業翻訳者としての)翻訳練習、通訳練習の全てをいれると結構きつきつです。が、これらはいずれも搾りたくはない。
となると、十分な通訳トレーニングの時間はとれません。
そこで、自分でもできるトレーニング法を取り入れることにしました。
サイトトランスレーション
日英通訳者としてのトレーニングを受けたことは実際ありません。
そのため、本授業では、次の本を参考にサイトトランスレーションを取り入れています。
- 作者: 水野真木子,鍵村和子,中林真佐男,長尾ひろみ
- 出版社/メーカー: 三修社
- 発売日: 2002/09
- メディア: 単行本
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この本は、通訳になるためのトレーニング法が整理されていて、通訳者を志す人にとっては、有用な本だと思います。(が、ここでは詳しくは述べません。)
サイトトランスレーションは、簡単に言えば、「文字で書かれたものを目で追い、同時に訳していく」という作業です。
簡単そうですが、実は意外と難しいです。
授業では、学生さんにまず「訳せそうな単位」で文章を区切ってもらいます。
そして、その文章を、目で追いながら口に出して訳してもらいます。
そうすることで、言語Aでインプットされた情報を、即座に別の言語Bに訳す練習ができます。まさに通訳がやることを、文字ベースで練習するわけです。
どうしても、文字ベースだと、そのまま文全体を訳そうとする癖が抜けないので、良いトレーニングになっているのではないかと思います。
また、即時で訳すので、翻訳のように十分な調査はできません。即座に訳語が浮かばない場合、適切な形で言い換えをする練習にもなっているようです。
リアクションペーパーにも、「意外と難しかった」「文章を見て丁寧に訳す練習しかしてこなかったから、良い練習になった」など書いてくれました。
ポルトガル語通訳を学べる授業
ポルトガル語日本語の通訳に関する研究や、方法論を提示した本などは(私の知る限り)ありません。
通訳者はおそらく、独自の方法で通訳技術を学んでいるのではないかと邪知します。
今回、日英通訳者向けのトレーニングを援用したことで、昨年の授業よりも通訳者を志す学生にとって、役立つ授業になっていることを願います。
少なくとも、昨年よりもより実践的で役立つ形になっているのではないかなと思っています。
昨年の授業の問題点
私は、昨年度からこの授業を担当しています。その前は、別の先生が担当されていました。
そのような経緯もあって、一昨年のシラバスを参考に昨年のシラバスを作成しました。
そのため、通訳法の授業なのに、企業向けのプレゼンの練習があったり、観光地をポルトガル語で紹介したりといった、謎の構成でした。
今年は、思いを新たに次の3本柱に改革することにしました。
(1)社会言語学・異文化コミュニケーション学的知見と通訳
(2)(通訳翻訳兼業ができるようにするための)産業翻訳*1
(3)通訳のトレーニング
そのうち(3)について、去年は、「言語Aのビデオを見てメモして内容を言語Bで説明する(およびその逆)」と「ビデオを見て、停止させながら通訳する」という2本建てでした。
しかし、前者と後者のギャップが大きく、その間にブリッジとなるものを入れたいと考えていました(シラバスにはないのですが・・・)。
そこで、今回はサイトトレーニングを行うに至ったという経緯です。
最終的にどうなるかは分かりませんが、現段階では手応えを感じているところです。