Livre para Viver

日本語とポルトガル語とその周辺

今でも手元に置いて参照することのある音声学の本

日本語教育という分野に関わるようになるとは思っていなかった学部生のころ。ポルトガル語を学んでおり、言語学には興味を持っていました。

音韻論や音声学にも興味を当然持っていて、ブラジル留学中には音声学を勉強していました。

ポルトガル語で書かれた音韻論と音声学のテキストを留学中に購入しましたが、母語でないこともあり、理解を助けるためにと読み始めたのが、以下の本。

日本語教育をめざす人のための基礎から学ぶ音声学

日本語教育をめざす人のための基礎から学ぶ音声学

 

 これを購入したのがいつだったかは覚えていないのですが、買った当時、日本語教育に興味はあっても、日本語教育という分野に進もうとは思っていませんでした。ただ、「日本語教育能力検定試験」は受けようと思っていたので、言語学とりわけ難しいとされる音声学の勉強をしなければならない中、役にたちそうということで、上記の本を買ったのだと思います。おそらく。

話は変わりますが、現任校は医療に従事する予定の学生がほとんどです。医療従事者にとって、「発音」というのは、おそらく重要です。医療専門職に従事する学生は、病院に勤める限り、様々なバックグラウンドをもつ、ほとんどすべての年代の患者さんと関わっていくことになります。同年代の学生や教員は、留学生の発音に慣れていたり、理解しようという心構えができていたりしますが、患者さんはそうではありません。

ということで、現任校では、できるだけ分かりやすい発音で話せるようにしたいと思っています。

言語聴覚士を目指すベトナムからの留学生が、保育園や老人ホームに実習に行ってきて、理解してもらえなかったと嘆いていました。言語聴覚士であれば、なおさらのこと、発音には気を付けてほしいと思っています。

というわけで、現任校では、以下のテキストを使いながら、発音の練習をしています。

初級文型でできる にほんご発音アクティビティ(CD付)

初級文型でできる にほんご発音アクティビティ(CD付)

 

 ただ、このテキストは、自然なイントネーションで話せるようになるとの趣旨で作られているため、それぞれの音については、個別に指導が必要です。

そんなとき、リファレンスとして役にたっているのが、先述の『日本語教育をめざす人のための基礎から学ぶ音声学』です。

この本の良いところは、音声学についてあまり知識のない日本語教師を目指す人向けに書かれているところです。

特に参考になるのは、「第1章 単音」で、注意すべき音について、分かりやすく説明されています。日本語では一つの音素としてみなされる音が複数ある場合も、一般にどのように調音されるのかが説明されており、学生に対しての説明を考える際にも役立ちます。

特に、上述の学生は、言語聴覚士を目指しており、学部の授業で音声学を学んでいることから、調音がどのように行われるのかの基礎知識があり、調音点を説明すると、各段に良くなりました。(たとえば「だ」の音が、そり舌音に聞こえるため、調音点を説明すると自然な「だ」になりました。)

授業後に、この本を参照し、説明が間違っていなかったことが確認できてほっと一安心です(笑)。

音声というのは、日本語教育では無視されがちですが、知識として、持っていて損はありません。上記の本を参照しながら、効果的に音声教育ができたらと思っています。

 

【メモ】MacでMeCabをUniDicで使う方法

現任校に着任してから、医師国家試験の分析を進めています。数ヶ月内に学会発表などができたらいいなと考えています。他の日本語教員と共同で進めているため、一人で進めるよりも格段に早く進みます。年度内に、何らかの形で、公表できればいいなと思っています。

その際に、手持ちのMac Book Pro (Mid 2010, Mac OS X 10.12.5) でMeCabをインストールし、辞書としてUniDicを入れたのでその方法を紹介します。

私自身は、GUIベースでできること以外には疎く、かなり苦戦しました。同様の背景の方がMeCabでUniDicを用いて形態素解析しようと思った際に、参考になればと思いこのエントリーを書きました。

本学で各教員に提供されているコンピューターはWindows 10で、文字コードの問題かうまく形態素分析の処理ができなかったため、使い慣れた手持ちのMacに入れることにしたのですが、Macにインストール・使用する際にも苦戦しました。自分のための覚え書きとしてメモしておきます。

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【覚え書き】医療コミュニケーション研究に関する入門書

先日の記事でご報告したように、今年度より国際医療福祉大学に着任し、医学部をはじめとする医療系専門職を目指す学生の日本語教育に従事することになります。

そのうち看護については、EPA*1などもあり、既に先行研究がかなり行われています。看護の日本語教育は、既にいくつかの教材が開発されており、一般に販売されています。*2

一方、医学部の日本語教育については、実践報告レベルでの論文が中心となっているようです。*3

着任した大学は、新入生140名のうち20名が留学生であり、これだけの留学生が在籍しているのは、全国でも例をみないようで、これらの先行研究を参考にしつつも独自の日本語教育を作り上げていく必要があります。

今後は、医療コミュニケーション分野の知見も参考にしながら、研究を進めて行かなければなりません。そして、その研究の成果を医学生日本語教育に還元していく必要があります。

医療コミュニケーションは一種の制度的な談話であると考えられます。私も制度的な談話には興味をもちつづけていますが、研究の対象としてきたのは、教室談話。医師と患者とのコミュニケーションや、医療者同士のコミュニケーションについては、無知もいいところです。そこで、まずは、研究のとっかかりとして、どのような研究があるのかを知り、それらの概要を学ぶことにしました。

いくつかの本を購入したり図書館で借りたりしましたが、いまのところ

  1. 医療コミュニケーション研究会(編集)(2009)『医療コミュニケーション―実証研究への多面的アプローチ』篠原出版新社
  2. 石崎雅人・野呂幾久子(監修)(2013)『これからの医療コミュニケーションへ向けて』篠原出版新社.

の2冊がよさそうな印象です。

1. は医療コミュニケーションの研究を概観し、主な研究手法を紹介しています。社会言語学的なアプローチ*4、機能的アプローチ*5、会話分析、ナラティブ分析、異文化分析、カウンセリング心理学といった複数の視点から見た医療コミュニケーションを具体的な研究成果を紹介しています。

2. は、医療コミュニケーション研究を、医療の現場にどう活かしていくのかという観点で紹介しているものです。1. が研究手法の指南だとしたら、研究成果をよりよい医療コミュニケーションのために活用するというのが、この本です。まだ、読めていないのですが、今後医療職に関わる学生たちの指導にあたっているので、勉強しなければと思っています。

日本ヘルスコミュニケーション学会にも先日加入に、秋の学会に参加しようと思っています。まだまだ勉強しなければいけないことが多くあります。医学系の留学生の日本語教育を行っている先生方のみならず、看護や介護の日本語の研究者の方などからも勉強させて頂きながら、今後は研究していきたいと思っています。

 

*1:経済連携協定, 詳細は外務省サイト参照

*2:たとえば、『外国人のための看護・介護用語集―日本語でケアナビ 英語版』や『専門日本語入門 場面から学ぶ介護の日本語【本冊】』など。

*3:松元宏行 (2000)「医学系留学生のための専門日本語教育」専門日本語教育研究 , pp.46-53.など 

*4:といっても幅広いですが、紹介されているのは、ポライトネスが中心です。

*5:Balesのインタラクションを統計的に分析するための手法であるIPA (Interactin Process Analysis)を医療に特化させたRIAS (Roter Interaction Analysis System) を用いたものが紹介されています。