Livre para Viver

日本語とポルトガル語とその周辺

【学会報告】日本ヘルスコミュニケーション学会

だいぶ日があいてしまいましたが、9月14日から15日まで、九州大学病院キャンパスにて開かれていた、第10回日本ヘルスコミュニケーション学会学術大会に行ってきました。 私は、本学の日本語教員の先生、看護学科の先生と共同で行なっている研究の一部を発表してきました。

山元一晃・加藤林太郎・浅川翔子「看護師・看護学生のためのライティングテキストの現状と課題:留学生のためのライティング教育への応用を視野に」『第10回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会プログラム・抄録集』p. 50.

ヘルスコミュニケーション学会は、学際的な学会で、医療系専門職の方、医療系大学の専門教育に従事している方、コミュニケーション研究者、言語(教育)学の研究者等、様々な分野の方が参加しています。 同分野、他分野の方から意見がいただけるいい機会でもあり、また、自分のバックグランドである言語(教育)研究と、医療を関連付けるヒントを貰える学会でもあります。 興味深かった発表は以下です。

  • 土屋慶子ほか「救急医療シュミレーションセンターでのリーダーの依頼行為:受けて割当装置としてのポライトネスと視線配布 」『第10回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会プログラム・抄録集』p. 53.

    救急医療シュミレーションセンター内でのコミュニケーションを分析した研究で、緊急時でありながら、上下関係があり、かつ、多職種が関わるような精度的談話における場面を扱ったものです。リーダーの医師は、同僚には、呼称とポライトネスを用い、研修医にはこれらを用いない傾向があることがわかったとのことでした。ポライトネスへの配慮がないということは想像がつきますが、呼称も入れないというのは意外でした。救急の場面であるから、下の立場の人には同じ対応をするのかと思いきや、研修医と同僚で異なるということ。研究の進展を追わせて頂きたいと思う研究でした。

  • シンポジウム2「医療の国際化に関する諸問題の異文化コミュニケーションの視点からの分析」『第10回日本ヘルスコミュニケーション学会学術集会プログラム・抄録集』pp. 23 - 26.

    医療の国際化について、異文化コミュニケーションの研究者、総合病院の副院長、通訳会社の社員という異なる立場での発表でした。立場によって、国際化への目線が異なるのだなというのを感じました。特に病院の副院長の方は、生活者よりもインバウンドに目は向きがちなのだと思った次第です。インバウンドで来る人も大切ですが、これから少なくとも数年は住んでいくことになる生活者にも目を向けてほしいなと思いました。問題になりがちなのは、生活者ではなく旅行者・短期滞在者ではあるのでしょうが・・・。集住地域かそうでないかの違いにもよるとは思います。通訳会社の方は、生活者/旅行者のどちらにも目が向いていました。 これから、事実上の移民政策により、これからも生活者として、外国から多くの方が来日するかもしれません。そのような中、インバウンドばかりに目を向けていて、日本で生活する人の権利を保障できるような政策が望まれるし、訴えていかなければならないんだろうな、と感じました。

医療の国際化ということで、全体的に大変おもしろかったです。来年は東大とのことで、参加したいと思います。

【研究会報告】言語資源活用ワークショップ

先日(9月4日〜6日)まで、立川の国立国語研究所で開催されていたワークショップ&シンポジウムに参加してきました。

いままでは、コーパスの研究はほとんどしたことがなかったのですが、本学に着任して以降、コーパスを使った研究に興味が出てきています。

例えば、医療用語の分析などにBCCWJ(現代日本語書き言葉均衡コーパス)のデータを使っています*1。 にわか勉強で、形態素解析MeCabの使い方やその辞書であるIPAやUniDicなどについて、学び、これまたにわか勉強の統計的な手法を使って分析したものです。それまでは、試しにMeCabをいじった程度の知識しかなく、また、Rも存在をしってはいたものの、使ったことはなかったのですが、多少できるようになりました。 livreparaviver.hateblo.jp そんな背景もあり、勉強もかねて、今回、国立国語研究所に3日間通うことになったわけです。

ワークショップ

最初の2日間は、ポスター発表と口頭発表形式で様々なワークショップが開催されていました。 私は、ポスター発表のみに参加したのですが、コーパスに基づく研究の多様性に気付かされました。 情報工学系の研究、特定分野の語彙研究、スペイン語文法の研究等、大変おもしろく、大規模データの利点を存分に発揮した研究も多かったように思います。 これまで、コーパスや統計的手法を用いた研究はほとんどやったことがなかったので、まだまだ勉強不足だなあと痛感させられましたが・・・。その中で、特に面白かったものをメモがてら紹介します。*2

  • 居關友里子ほか「日本語日常会話コーパスに対する談話行為アノテーションの試 み:タグ選択が困難な事例に焦点を当てて」

 大学院の研究室の後輩が発表していたポスターです。日常会話コーパスという、できるだけ自然な日常会話を収録したコーパス構築の試みの中で出てきたタグ付けの難しさについての発表でした。ただでさえ分析が大変な会話データをコーパス化するという試みは本当に大変なことなんだなと思いました。日常会話コーパスが完成したら自らの研究にも活用していきたいと思います。

  • 今村桜子「学校お便り文書の高頻出語彙の縦断的研究- 4 年生から 6 年生までの名詞・サ変名詞・動詞の分析」

 移民の受け入が進みつつある日本(あくまで建前は、「移民ではない」そうですが・・・。*3)において非常に意義のある研究だと思います。本格的に移民の受け入れが進めば、保護者の母語の多様性がましてくると予想されます。多言語対応だけでは予算も、学校現場のリソースも足りないという状況が考えられ、このような基礎研究、また、それに基づく支援体制づくりがいままで以上に求められてくるように思いました。

  • 宮嵜由美「LINE データベースの設計と属性付与の現状について」

 以前より、テキストメッセージングアプリでのコミュニケーションについては興味がありました。しかし、会話などとは異なり、自分と自分の知り合い以外の人たちとのコミュニケーションを見聞きする機会はほとんどありません。LINEデータベースができれば、テキストメッセージングアプリでのコミュニケーションの実態を研究することができるようになるため、多様な言語を研究する上では、構築されたら、活用していきたいと思います。

  • 岩崎拓也ほか「クラウドソーシング発注文書におけるレジビリティの量的分析」

 クラウドソーシング発注文書についての研究です。着眼点が面白いなと思いました。確かに、クラウドソーシングでは、受注者の目に止まらなければならないため、(読みやすさという観点では)様々な工夫がなされてそうな気がします。

【研究会報告】日本リメディアル教育学会第14回全国大会で発表しました

先日(8月28日)、日本リメディアル教育学会第14回全国大会(@創価大学)でポスター発表をしてきました。

稲田朋晃・品川なぎさ・山元一晃佐藤尚子 (2018) 「医療系分野で学ぶ留学生のための漢字教科書の開発」(『日本リメディアル教育学会第14回全国大会発表予稿集』日本リメディアル教育学会, pp. 138-139. )

リメディアル教育に携わる様々な分野の先生方が集まる学会で、上記発表では現在開発中の医療系分野で学ぶ学生のための漢字教材について発表してきました。教材の開発過程でも感じていますが、医療の漢字はとにかく難しいものが多いです。直感が全く聞かなかったり、直感で読んでも間違えていたり。医療系専門職を目指す学生を教える身として、この教材を自分でも使って勉強しなければと思っています(笑)。

さて、私達の発表については、この程度にしておいて、感想を。

今回、感じたこととして2点あります。

まず1つめは、リメディアル教育に携わる人の多様性です。

当たり前といえば、当たり前なのですが、医療系の大学で教えている方だけでも、物理学を放射線技師を目指す人や薬剤師を目指す人に教えたり、英語を(様々な分野の学生に)教えたり、日本語でのライティングを教えたりと様々でした。

先生方が苦心しておられるのは、学生が必要性を感じてくれなかったり、それまでに学生が受けてきた教育の内容によって理解が進まなかったり(高校で必修でなく、入試でも求められなかったなど)といったことによる問題の解決でした。

私も大学で日本語教師をしている限り、専門が他にある学生たちの日本語教育を続けることになると思います。たくさんのヒントが、多様な分野の先生方から得られました。

2つめは、ライティング支援の必要性です。神田外語大学の西先生のご発表が印象的でした。

西菜穂子「論文執筆を通じた書き手の成長」『日本リメディアル教育学会第14回全国大会発表予稿集』日本リメディアル教育学会, pp. 128-129. )

 本学は、ライティングセンターのような組織はありません。そのため、ライティングの指導は各学部の先生方に任されています。

一方、日本語教員の側からは、留学生(など)がライティングに困っているという現状を放置するわけにもいかず、学生から申し込んでもらいライティングの支援をするという体制を用意しています。

神田外語大学では、しっかりとした組織としてライティングセンターが作られているとのことで、羨ましく感じました。「結果から示唆されるのは、論文執筆とセンター支援が効果的に結びついた場合、書き手の文章作成に対する自己効力感が高まり、学問的成長へと繋がる可能性である。」(p.129)とあります。組織としてライティングセンターを用意し、専門の先生が対応し、学生が申し込みさえすれば自由に活用できることで実現できたことなのではないかと思います。

日本人の学生にこそライティング指導を受けてほしいと思っているので、本学でも検討されるようになればと思います。(現在の体制では、留学生にしか届かない&日本人学生が来ると手が足りなくなる。)